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はじめに
「フリーアドレス」は、席を固定せず、その日の気分や業務内容で自由に座る席を選べる、自由で柔軟な働き方のはずでした。 しかし現場では、「自由」とは名ばかりの不自由さを感じている人が少なくありません。 この物語では、導入目的が曖昧なまま始まったフリーアドレスが、職場にどんな歪みを生むのかを描きます。

「自由なはずなのに、席が足りない・座れない・誰がどこにいるか分からない」
これは関東にある、従業員300名ほどのシステム開発会社での出来事。
コロナ禍を機にリモートワークが定着したことで、会社は「オフィスコスト削減」と「コミュニケーション活性化」を掲げ、全社でフリーアドレスを導入した。 出社率は5割程度と想定され、席数は全社員の6割に削減された。
導入時の説明会では、次のような話があった。
- 総務 😄 「これからは部署の垣根を越えて、自由に交流できる職場になります!」
- 社員一同 🤔 「(で、結局なんのために導入するんだろう……?)」
コスト削減なのか、交流促進なのか、働き方改革なのか。 会社の説明は日によって微妙に変わり、結局誰も本当の目的を説明できないまま運用が始まった。
朝の疲労
導入から数日後の朝。 中途入社2年目のAさんは、始業の15分前にオフィスへ到着した。
- Aさん 😪 「今日はどこに座ろう……。」
通勤で既に疲れているのに、席探しが始まる。 窓際は日差しがまぶしい。 壁際は落ち着くが、もう埋まっている。 モニター付きの席は、当然ながら全滅だ。
- Aさん 🤔 「ここ空いてるかな……。荷物は置いてないけど、誰か使うのかな?」
- Aさん 😅 「(近くの人に聞くのも気まずいな……。)」
結局、10分かけて席を決め、PCをセットアップする頃にはもう始業時間。 仕事を始める前に、すっかり気力を消耗していた。
暗黙の固定席
数週間後。 Aさんがようやく見つけたお気に入りの席に座っていると、背後から声がかかった。
- Bさん 😐 「あの、そこ、いつも私が座ってる席なんですけど……。」
- Aさん 😳 「えっ、あ、すみません! 自由席だと思って……。」
- Bさん 😒 「まあ、別にいいですけど。」
Bさんは言葉とは裏腹に、明らかに不機嫌な様子だった。 Aさんは慌てて荷物をまとめ、別の席を探しに行く。
- Aさん 😰 (自由に座っていいんじゃなかったの……?)
周りを見渡すと、いつの間にか席は「いつもの人のいつもの席」になっていた。 誰が決めたわけでもないのに、暗黙の固定席が完成していたのである。
98%が同じ席
導入から半年が経つ頃には、状況はさらに明らかになっていた。
- 同僚C 😑 「最初は『今日はどこに座ろう』ってワクワクしてたんですけどね。」
- Aさん 🙂 「今はほぼ毎日同じ席ですよね。」
- 同僚C 😅 「そうなんですよ。結局、98%の人が同じ席に座ってるんじゃないですかね。」
部署を超えた交流を生むはずの制度は、いつしか「毎日同じ席に座る」ことが前提の運用に変わり、本来の狙いはすっかり形骸化していた。
顔と名前が一致しない
そんなある日、新しく中途入社したDさんが、Aさんに声をかけてきた。
- Dさん 😟 「すみません、〇〇さんって、どちらの席にいらっしゃいますか?」
- Aさん 🤔 「ええと……今日は出社されてるのかな。ちょっと分からないですね。」
- Dさん 😓 「前の会社では、席表を見れば誰がどこにいるか分かったんですけど……。」
新しく入社した人にとって、社内の誰が誰なのか分からない環境は想像以上に過酷だった。 顔と名前が一致しないまま、時間だけが過ぎていく。 チャットで居場所を尋ねても、「今日はどこに座ってるか分からないです」と返ってくるだけだった。
- Dさん 😔 「入社して1か月経つのに、まだ半分以上の人の顔が分かりません……。」
モニター席の争奪戦
さらに、設備の格差も問題になっていた。 モニター付きの席は全体の2割ほどしかなく、早く出社した人から埋まっていく。
子育て中のEさんは、保育園の送りがあるため、毎日始業ぎりぎりの出社になる。
- Eさん 😢 「今日もモニター席は全部埋まってる……。」
- Eさん 😔 「ノートPCの小さい画面で、設計書とコードを並べて見るの、本当にしんどいです。」
- 同僚F 😐 「早く来た人が先、ってルールだから仕方ないですよね。」
- Eさん 😞 「(時間に制約がある人ほど不利になるルールって、公平なのかな……。)」
作業効率にも、満足度にも、じわじわと差が広がっていった。
出社要請で、席が足りない
そして、ある日の朝礼。
- 役員 😠 「リモートばかりでは組織の一体感が失われる! 来週から原則、全員出社とします!」
- 社員一同 😱 「えっ!?」
席数は全社員の6割しかない。 当然、初日からオフィスには人があふれた。
- 総務 😰 「すみません! 席が足りなくて……会議室とラウンジも開放します!」
- 社員G 😩 「ラウンジの席でオンライン会議って、周りの声がうるさくて何も聞こえないんですけど……。」
- 社員H 😡 「リモート前提で席を減らしておいて、出社しろって……どういうこと?」
さらに、早く来た者勝ちの席取り競争が始まり、朝7時台に出社して席を確保する人まで現れた。
- Aさん 😮💨 「結局、何のためのフリーアドレスだったんでしょうか……。」
- 同僚C 😑 「会社も、よく分かってないんじゃないですかね。」
解説
このトラブルの根本原因は、フリーアドレスそのものではなく、導入目的が曖昧なまま始まったことにあります。
コスト削減、コミュニケーション活性化、リモートワーク対応など、フリーアドレスにはさまざまなメリットがあります。 しかし、目的が定まらないまま導入すると、次のような問題が起こります。
- 精神的な負担:毎朝の席選びという無駄な意思決定が発生し、「そこは〇〇さんの席」という暗黙の固定席が人間関係の摩擦を生む。
- 制度の形骸化:結局いつも同じ席に座るようになり、部署を超えた交流という狙いが機能しない。さらに、中途入社者は誰がどこにいるか分からず、顔と名前を覚えるのが難しくなる。
- 不公平感:モニター付きなどの人気席は早い者勝ちとなり、時間に制約のある子育て世代などが不利になる。
- 運用の矛盾:リモート前提で席数を減らしたのに、会社が出社を要請した瞬間に、運用が破綻する。
つまり、制度の設計が「会社の都合」や「見た目の新しさ」で決まっており、現場で働く人の視点が抜け落ちていることが問題なのです。
世の中には、目的や効果を深く考えないまま「流行っているから」「他社もやっているから」と制度を導入してしまう企業が、実際に存在します。 制度に振り回されるのではなく、「その制度が何のためにあるのか」を見極める視点が、働く側にも求められます。
おわりに
世の中には、目的が曖昧なまま制度を導入し、現場に負担を押し付けてしまう会社が実際に存在します。 「リモート前提で席を減らし、気が変わったら出社を要請する」といった、一貫性のない判断が当たり前に行われることもあります。
しかしAIの台頭により、こうした非効率な判断を繰り返す会社に、人手不足だからと我慢して勤め続けることは、今後リスクになっていくかもしれません。 働く環境や会社の方針に疑問を感じたときは、転職やフリーランスとしての独立など、環境を変える選択肢も検討してみてはいかがでしょうか。