はじめに

顧客との打合せでは、要件への理解不足を指摘された時にどう振る舞うかで、その後の信頼関係が大きく変わります。
この記事では、自分の理解不足を認めたくないという心理が、かえって顧客の不信感を招いてしまった職場のトラブルを紹介します。

本記事は、エンジニアや企業を貶めることを目的としたものではありません。情報収集が困難な業界内情を提供し、今後のキャリアに役立てていただくこと、そして業界への監査を行うことを目的としています。

「チャンスを自ら潰す案件潰しPL編」

これは、大手SIerの下請けとして開発案件を受けている、岡山のシステム会社A社での出来事。

A社は数十名規模のシステム会社で、大手SIerから受注した案件を、PL(プロジェクトリーダー)とエンジニアの数名体制で回すことが多かった。
今回参加した打合せは、クラウド上に蓄積された大量のPDFファイルに対してOCR技術を適用し、メタ情報を抽出して検索性を高めるという新規案件のキックオフだった。

打合せの中で、要件の説明が一通り行われた。
キックオフ後、顧客とA社で個別の打合せを実施した。

  • 顧客 🙂 「さっきの打ち合わせ、A社さん的にどう思いました?」
  • A社PL 😐 「まだ、要件がプアーな感じで、なんとも……」

要件はすでに十分に説明されていたにもかかわらず、A社PLは言い訳し、言葉を濁した。
横で聞いていたA社エンジニアは、内心「そんなに曖昧だったか?」と首をかしげていた。

要件を理解できていないのではと感じた顧客は、あらためて丁寧に補足を始めた。

  • 顧客 🙂 「ユーザーがやりたいことって〇〇だと思うんですよ。で、〇〇を実現するとなると……」
  • A社PL 😠 「私も分かってますよ!」

顧客の言葉を遮り、食い気味に返すA社PL。
要件が理解されていないと思われたことで、自分が無能だと見られていると感じたのかもしれない。
その場に、しらーとした空気が流れた。
顧客もA社エンジニアも、思わずドン引きして青ざめる。

引き気味になりながらも、顧客は会話を続けようとした。

  • 顧客 😕 「OCRを使うとなると、どのサービスを使うかというのが課題だと思うんですが……」
  • A社PL 😏 「OCR、文字認識機能ですね。」

理解できていることをアピールしたいのか、顧客の言葉をそのまま復唱したり、別の言い方に言い換えたりするA社PL。
しかし内容そのものへの回答にはなっていなかった。

らちが明かないと感じた顧客は、単刀直入に核心を尋ねた。

  • 顧客 😐 「いや、聞きたかったのは、A社さんはこのシステムのアーキテクチャとか提案できますかってことなんですよ……」
  • A社PL 😳 「そういうことでしたら是非当社に!」

それまでの態度が一変し、急に前向きな姿勢を見せるA社PL。
その落差の大きさに、周囲は言葉を失った。

雰囲気を察したA社エンジニアが、慌ててフォローに入る。

  • A社エンジニア 😅 「と、とりあえず詳細は持ち帰らせていただいて、ご提案させていただきますね。」

打合せはひとまずその場を収める形で終わったが、顧客のA社に対する印象は、決して良いものではなかった。

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解説

このトラブルの根本原因は、A社PLが「要件を理解できていない」ことそのものではなく、それを指摘されたときに、理解不足を認めずに取り繕おうとしたことにあります。

「まだ要件がプアー」という発言は、顧客の説明不足を暗に示唆するもので、責任を相手に転嫁するニュアンスを含んでいます。
また、顧客の補足説明を遮って「分かっている」と主張したり、言葉を復唱・言い換えするだけで実質的な回答を避けたりする行動は、理解できていないことを隠そうとするあまり、逆に理解できていないことを露呈させてしまう典型的なパターンです。

顧客側も最初は好意的に補足していましたが、やり取りが重なるうちに「この人は本当に理解しているのか」という疑念を強めていきました。
そして最後に核心を問われた瞬間、それまでの姿勢とはうらはらに前向きな態度に切り替えたことで、それまでの言動が「その場を取り繕うためのもの」であったことを、結果的に自ら証明してしまいました。

こうした場面では、理解できていないことを素直に認め、「その点については確認させてください」と伝える方が、よほど信頼を損なわずに済みます。
分からないことを認めるのは、必ずしも無能の証明ではありません。むしろ、分からないことを分かったふりで乗り切ろうとする方が、後々大きな信頼の損失につながります。


おわりに

こうしたPLは、実は発注元の大手SIerからも「一緒に仕事をしたくない」と思われていることが少なくありません。
それでも今までは業界全体が人手不足だったため、大手SIerも「仕方なく」下請けに発注し、多少頼りないPLがいる会社にも仕事を回してくれていたのが実情です。

しかし、AIの台頭によって、この構造は今後変わっていく可能性があります。
要件の整理や提案の下地作りなどをAIが担えるようになれば、「人がいないから仕方なく発注する」という力学は弱まり、コミュニケーション能力や提案力に乏しい会社・PLは、これまで以上に選ばれにくくなっていくでしょう。

もしあなたが、今回のA社PLのような振る舞いが日常的に行われる会社で働いているなら、その環境に留まり続けることは、キャリア上のリスクになりかねません。
優良企業への転職や、フリーランスとして独立して環境そのものを変えることも、選択肢の一つとして考えてみる価値があるはずです。