中小企業ではスキルアップができない理由
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はじめに 「なぜ中小企業ではスキルが伸びないのか」—— 転職や異動を経験した人なら、この疑問を感じたことがあるかもしれません。
大企業と比べて研修制度が整っていない、という指摘はよくあります。しかしそれだけではなく、組織文化や個人の習慣レベルに深い根本原因が存在します。
表面的な「研修がない」「予算がない」という理由の背後には、目標設定能力の欠如、学習に対する姿勢の問題、そして日常的な生活習慣まで、複合的な要因が絡み合っています。これらは一朝一夕には解決できず、組織全体の文化として根付いているケースがほとんどです。
本記事では、実際の現場で起きた事例をもとに、中小企業でスキルアップが進まない5つの理由を解説します。
1. 論理的思考力が弱く、目標設定と達成プロセスが機能しない 事例 これは、社員数十名規模のIT系中小企業での事例です。
ある年、経営層の発案により、目標設定の手法として有名な「マンダラチャート」を用いて、チーム目標を立てる試みが始まりました。マンダラチャートは大谷翔平選手の高校時代の目標管理でも有名になった手法で、中心に置いた目標から具体的なアクションを展開していくものです。
しかし、いざ実践してみると問題が次々と浮き彫りになりました。メンバーの論理的思考力や語彙力が不足しており、「スキルを上げる」「もっと頑張る」といった抽象的な表現しか出てこず、測定可能な具体的な目標を定義できませんでした。
さらに、目標を並べることに集中するあまり、運用設計が完全に抜け落ちていました。具体的には、
誰が何を担当するか どの周期で振り返りをするか 進捗が遅れたときの修正方法 といった基本的な仕組みを決めないまま、「計画を作った」という達成感だけで終わってしまいました。
その結果、
そもそもPDCAのPlanすらちゃんと立てられない 目標の進捗確認が誰にも行われない 目標を立てただけで終わり、四半期後には誰も覚えていない という状態になり、スキル向上には全くつながりませんでした。
理由 目標を立てる能力が弱い組織では、スキル向上の仕組みそのものが成立しません。論理的思考力がなければ「何を・いつまでに・どうやって」という構造で考えられないため、計画は絵に描いた餅になります。
また、目標設定は一種のスキルです。SMARTゴール(Specific・Measurable・Achievable・Relevant・Time-bound)のような考え方を知らなければ、いくら時間をかけても意味のある目標は作れません。このスキル自体を学ぼうとしない限り、毎回同じ失敗が繰り返されます。
2. 目標設定に異常な時間がかかる 事例 これは、設立30年以上の中小SIerでの事例です。長年にわたって目標管理の仕組みがなく、初めて社員の目標設定を導入することになりました。
「今年こそ組織として成長しよう」という経営層の意気込みのもと、全社員が個人目標を立てて管理職と合意するプロセスが設計されました。しかし蓋を開けると、想定外の問題が次々と発生しました。
まず、役員が期待するレベルと社員が書いてくる目標の内容に大きなギャップがありました。役員は「売上◯◯円達成」「新規顧客◯件獲得」のような数値目標を求めていましたが、社員側は「お客様に丁寧に対応する」「チームワークを大切にする」といった行動指針のような内容を書いてくることが多く、認識がまったく噛み合いませんでした。
さらに、
目標の定義が共有されていない(「目標」と「行動計画」の区別がない) 評価基準が不明確なため、何を書けば良いか誰もわからない 上司も部下に適切なフィードバックができない といった問題が重なり、目標のすり合わせが何度もやり直されました。
結果として、
目標設定だけで3ヶ月以上かかった 四半期の約1/4を目標設定の議論だけで消費 実際に業務改善に使える時間がほとんど残らなかった という非効率な状態になりました。また、期末に採算レビューを行っても、何が問題でどこを改善すべきかを社員が理解していないため、多くの社員が目標未達となりました。次の期になっても同じプロセスが繰り返され、改善の兆しは見えませんでした。
理由 組織として「目標を作る技術」すら持っていないのです。
目標設定のノウハウが蓄積されていない組織では、毎回ゼロから議論が始まり、肝心な実行期間が削られます。スキルアップどころか、目標管理のプロセス自体が膨大な学習コストを組織から奪っています。
加えて、「目標設定に時間がかかる」こと自体が問題視されないことも大きな課題です。本来であれば「なぜ3ヶ月もかかったのか」を振り返り、プロセスを改善すべきですが、「時間をかけた=真剣に取り組んだ」という誤った達成感で終わってしまうケースが多いです。
3. 自分本位の考えを重視し、教科書通りの学習をしない 事例 これは、社内向けの業務管理ツールを自社開発している中小企業での事例です。
社内ツールのリニューアルプロジェクトが立ち上がり、UIデザインの改善が課題として挙げられました。利用者から「使いにくい」「見た目がわかりにくい」という声が上がっていたため、デザインを一新する方針が決まりました。
本来であれば、デザイン改善には
ペルソナ設計(誰がどのような目的で使うかを明確化) ユーザーインタビューや利用状況の調査 UI/UXの基本原則(視認性・操作性・一貫性など) などの方法論を活用する必要があります。しかし、担当者はこれらの手法を「面倒くさい」「うちの会社には大げさ」と判断し、自分の感覚だけでデザインを進めました。
その結果、
勤怠管理ソフトのアイコンが「てんとう虫」になった(なぜてんとう虫なのか誰も説明できない) ボタンの配置がユーザーの操作フローと逆になっており、却って使いにくくなった デザインの意図が属人化し、担当者が退職したら誰も修正できなくなった という事態が起きました。ユーザーからの「使いにくい」という声は改善後も変わらず、むしろ混乱が増したという皮肉な結果になりました。