はじめに
目標管理制度を初めて導入する会社では、思わぬところでつまずくことがあります。
今回は、目標設定そのものに膨大な時間がかかってしまい、肝心の業務改善に手が回らなくなってしまった職場のトラブルを紹介します。
本記事は、エンジニアや企業を貶めることを目的としたものではありません。情報収集が困難な業界内情を提供し、今後のキャリアに役立てていただくこと、そして業界への監査を行うことを目的としています。
「目標設定に四半期の約1/4を消費する会社」
これは設立30年以上の中小SIerでの出来事。
これまで目標管理の仕組みが存在しなかったこの会社で、経営層の意気込みのもと、初めて全社員による個人目標設定が導入されることになった。 現場を統括する課長Hが自身のチームの目標を作成し、役員Fへの説明の場に持ち込んだ。
- 課長H 🙂 「今期のチーム目標は『担当システムの保守品質を向上させる』としました。」
- 役員F 😐 「そんな目標じゃ、ぬるい。もっと危機感を持って考えろ。」
- 課長H 😳 「危機感……ですか。具体的にはどのあたりを……」
- 役員F 😠 「そんなことまで俺が説明しなきゃいけないのか!お前がチームの責任者だろう!!」
課長Hは何が悪かったのか具体的な説明を得られないまま、感情論だけで目標を突き返された。
しかし部下への説明の場では、役員から言われたことを何とか自分の言葉に変換しようとする。
- 課長H 😓 (役員は「危機感」とか「ぬるい」って言ってたな……つまり、もっと厳しくすればいいのか?)
- 課長H 🙂 「みんな、今期の目標だけど、もっと危機感を持って厳しめに設定しよう。」
- 部下G 🤔 「危機感、というのは具体的にどういう……」
- 課長H 😅 「いや、そこはお前らで考えてくれ。とにかく緩い目標はダメだって話だから。」
部下Gたちは意図のつかめないまま、とりあえず数値を厳しくした目標を作り直し、再び課長Hを経由して役員Fへ持ち込む。
- 課長H 🙂 「危機感を持たせた目標に修正しました。」
- 役員F 😡 「なんだこれ、数字だけ厳しくすればいいってもんじゃないだろ!!本質を考えろと言ったはずだ!!」
- 課長H 😨 「す、すみません……」
課長Hはまた役員から罵声を浴びるが、「本質」という言葉の意味も具体的にはつかめないまま部下の元へ戻る。
- 課長H 😰 「役員から、本質を考えろって言われたんだ。もう一度、本質的に考え直してくれ。」
- 部下G 😔 「本質……というのは、前回の『危機感』とは違う話ですか?」
- 課長H 😩 「いや……それは……とにかく、もっと深く考えてくれ。」
部下Gたちは、前回の指摘との関係もわからないまま、また目標を修正する。
このやり取りが何度も繰り返され、目標は一向に固まらなかった。
- 部下G 😩 (もう4回目の書き直しだ……何を直せばいいのか、誰にもわかっていない。)
- 課長H 😥 (役員が何を言いたいのか、自分にも正直よくわかっていない……。)
気づけば、目標設定だけで3ヶ月以上が経過していた。
- 課長H 😰 「……もう四半期の1/4が、目標を決めるだけで終わってしまいましたね。」
- 部下G 😔 「はい……実際の業務改善に使える時間が、ほとんど残っていません。」
期末になり採算レビューが行われても、何が問題でどこを改善すべきか誰も理解できていない状態だったため、多くの社員が目標未達となった。
そして次の期になっても、同じプロセスがまた繰り返されることになった。
解説
問題点
役員Fは自分の指摘を具体的な言葉や基準に落とし込まずに感情論だけで課長Hを否定し、課長Hもその指摘を正しく理解できないまま、意味の伝わらないフィードバックを部下Gに横流ししていました。
情報の伝言ゲームの中で「何を直せば良いのか」という肝心の内容が誰にも共有されず、修正の度に方向性が変わってしまう点が最大の問題です。
さらに「時間をかけた=真剣に取り組んだ」という誤った達成感で終わり、プロセス自体の見直しがされない点も問題です。
対処法
上位者からの指摘が抽象的なままだと、中間管理職はそれを正しく翻訳できず、部下への指示がさらに曖昧になっていきます。
指摘を受けた側は、その場で「具体的にどう変えればよいか」を確認し、認識を合わせてから次の工程に進むことが重要です。
また、目標と行動計画の違い、評価基準の明確化、フィードバックの仕方を一度仕組み化してしまえば、次回以降の目標設定にかかる時間は大幅に短縮できます。
おわりに
目標管理は、真剣に取り組むほど良い結果につながるとは限りません。
目標設定に毎回長い時間がかかっていると感じるなら、それは個人の努力不足ではなく、組織としての仕組みが整っていないサインかもしれません。